[ スキキライのおはなし ] 「えぇ!? 納豆嫌いなの!!?」 盛大な大声が突いて出て、部屋中に響き渡る。 信じられないと向ける視線の先、夜の自分が不貞腐れたようにむすりと、胡座に肘をついてそっぽを向いた。 「わりぃかよ…嫌ぇなもんは嫌ぇなんだ」 「えー? おいしいのにー」 てっきり、自分と彼は性格こそ違えど、味覚の嗜好は同じだと思っていたから余計に驚いた。けれど確かに、自分も甘味は好きだけれど、彼ほどは大量にアイスやホイップクリームは頬張らないなと思い起こしてみて、すとんと納得する。 「でもあれが苦手だなんて、やっぱり損してると思う。栄養価も高いんだし。めかぶ混ぜたりしてみてもダメ? においとか少しは変わるよ?」 「そもそも粘っこいもんは全部ダメだ! 口ン中ネバネバすんのが堪えられねぇ!! 許せんっ!!! めかぶなんて混ぜてみろ…ぜってぇムリだ見るのも嫌だぞそんなもん」 (そこまで嫌うか!!) 何だかもう苦笑も通り越して呆れしかこみ上げてこない。この捲し立てられ様に、ネバネバ系の食材が可哀想になってくる。 「まぁ、苦手なものは…仕方ないけど。あ、じゃあキミ納豆小僧のことどう思ってるの?」 「……………正直、ファブりてぇ…新品丸々ひとつ使ってでも全力でファブりてぇ」 「………ぅあ、そ…うなの」 ただでさえ低い声が語尾に行くに従い地を這うが如く、重さを増していった。 彼が除菌消臭スプレーを躍起になって振り撒く様を想像して、あまりの惨さに内心でそっと、納豆小僧に合掌を送る。 「じゃ、じゃあさ、好きなもの! 好きなもの、なに? 甘いものの他にも何かあるでしょ」 「んー………お前」 「ん? え?」 「だから、お前が好きなもんだって云ってんだよ」 云うが早いか、素早く顎を掴まれたかと思ったらそのまま一気に、彼の透けるような赤褐色の眸が迫って一瞬、全てが止まったかのような錯覚の内についと見惚れてしまった。 しかし直ぐにはっと気付き、両手を重ねて彼の顔をぐぐっと押し返す。 「ま、待って! ストップストーップ!!」 「なんだよ野暮だな、今更だろ」 「あ、あのね、ボクさっき夕飯…納豆、食べてきたから…」 「……………」 「ね…」 静かに、背けられた視線。 自分から静止を掛けておいて何だけど。 ちょっと、傷付いた。
12.07.01 拍手から移動 |